作品名:After Dark
リリース年:2022年予定
著者:リーアム・ウォン
コンセプト、アートディレクション:ダレン・ウォール
担当:漢字レタリング
出版社:Thames & Hudson
リーアム・ウォンの写真集『After Dark』の表紙や中身の漢字レタリングを担当しました。夜の街の風景を撮り集めた美しい写真集です。ウォン氏はゲームデザイン出身で、東京の夜の写真を集めた『TO:KY:OO』に次いで出版されます。
レタリングのスタイルはウォン・カーウァイ監督作品のポスターやオープニングの題字が元ネタとなっています。例えば『今すぐ抱きしめたい』、『ブエノスアイレス』『欲望の翼(繁体字・簡体字)』、『花様年華』などです。その多くはやや長体がかかっており、やや時代を感じるレタリング処理が、ウォン氏の写真の醸し出す80年代SF作品のようなロマンチシズムやノスタルジーにつながると思います。
アートディレクターのウォール氏とは拙著『アーケード・ゲーム・タイポグラフィ』からお世話になっており、彼と一緒にスタイルを詰めていきました。まずは『いますぐ抱きしめたい』の傾斜がかかったゴシック体を目指してたくさんのバリエーションを出していきましたが、最終的には黒バックに強い赤、強いデザインの文字が政治的すぎるかも、ということで、本の雰囲気により近いスタイルを探っていきました。
次に始めたのは『花様年華』の明朝体からでした。太線と細線のコントラストは明確に定まらなかったのですが、何度もデザインのやりとりをせずピンポイントにデザインを決めていきたかったので、細線を自由にコントロールできるバリアブルフォントを先方に送りました。ウェブなど動的なコンテンツには有効だと思っていたバリアブルフォントですが、プロトタイプ作りにも便利でした。
最終的にはコントラストの高い明朝とゴシックの二つが選ばれました。片方は表紙で、もう片方はコレクター版のジャケットです。最終的にはネタ元であるカーウァイ作品と現代的な繊細さが混じりあった作品にできたと思います。滅多にやらない漢字のレタリングで、お恥ずかしい部分もありますが。