ファミリー名:Marco
分類:市販書体
ファンダリー:Type Together
リリース年:2017
購入リンク:Type Together, MyFonts
Marcoはルネッサンス期イタリアの初期ローマン字形にインスピレーションを受けた本門用ローマン書体で、英国レディング大学のMA書体デザインコースで2010〜2011年に制作されました。
私はこの当時、ニコロ・ニッコリなどの人文学者の書やニコラ・ジェンソンやアルダス・マヌティウスなどの印刷家たちの作った初期ローマン活字書体に代表されるルネッサンス期のイタリアの文字にハマっていました。私の武蔵野美術大学での卒業制作はMonotype Centaurというローマン書体の復刻で、デジタル版になって痩せ細った名作書体を本来の姿に蘇らせるのが目的でした。この制作と付随するリサーチを通してこのカテゴリー全般へ惹かれるようになっており、MAコースでも自分自身のデザインでさらに深入りすることにしました。
中世のブラックレターの伝統から解き放たれたルネッサンス期の人文主義者たちは、時代の空気に合う新しい文字の姿を模索していました。彼らは大文字のモデルとして古代ローマ帝国時代のものを選び、小文字には同じぐらい古い(と思われていた)カロリン体などを選んで、それまでと比べると細く、ゆったりとしたスペーシングの書体を目指していました。ニコラ・ジェンソン、アルダス・マヌティウスらの活字がローマン体の形を決定づけ、現代も使われるローマン体の原型を作ることになるのですが、それまでにもコンラードとパナルツ、またスピラ兄弟などの初期の活字書体があり、こちらの方がデザイン的に不安定で手探り感があり、それゆえにとても面白いと思いました。そんな時代の躍動感をとらえ、ローマン体として問題なく機能する一方で、お話を聞かせたくてたまらないような、ちょっとそそっかしいような書体を作りたくなりました。
Marcoではいくつかの非欧文にもチャレンジしました。非欧文はレディングMATDでは頻繁に取り組まれる課題で、現在(2023年から)では必修となっています。取り組んだ文字はギリシャ、キリル文字、そしてモンゴル文字で、前者二つもそれはそれでとても語ることの多い文字ですが、特にモンゴル文字が大きな課題となりました。私はこれまでMATDの歴史上誰も取り組んだことのない文字をやりたかったということと、日本人として地理的、文化的に親近感の湧く文字、かつ日本語ではない文字をやろうと思っていました(漢字圏にも手を出さず)。モンゴル文字はアラビア文字と同様に連綿して書かれ、また常に縦書きされます。この文字の知識を得るために多くの文献を当たったりモンゴル語圏に調査旅行に行き、その成果としてモンゴル文字の書道的な特徴、活字的な特徴の両方を残した、Marcoの欧文に合うようなデザインを作りました。正直言ってこのプロジェクトはデザインよりも技術的な難易度の方が高く、ここから多くのOpenTypeの知識を得ることができましたが、フォントとして満足に機能させられるには至りませんでした。(モンゴル文字はOpenTypeの中でも最も困難な文字の一つで、2025年現在でもようやく実用化できる統一的な仕様ができたような段階です。2010年の学生にできないのは当然でした)
サンセリフも少し作り、Sans Marcoと洒落のような名前を付けたいという野望を持っていましたが、ほとんど勢いで作っただけのようなデザインだったので、こちらはコース終了後にお蔵入りさせています。しかしこの一環として、自分の知る限り世界初の本文用のモンゴル文字のサンセリフを作ったのではないかと思います。
Marcoは幸運なことにTypeTogetherから販売のオファーを受けました。コース修了後すぐにリリースできると思われてたかもしれませんが、実際に完成させられたのは数年後になってからでした。忍耐強く待ってくれ、さまざまな指南をいただいたTypeTogetherのヴェロニカとホセにはこの場を借りて感謝いたします。先に触れたモンゴル文字とサンセリフは市販版には含まれていませんが、コース修了時に作った見本にその姿を確認することができます。
Marcoは2014年Modern Cyrillic書体コンテスト、2015年のTDCの書体部門でそれぞれ受賞しています。