Toshi
Omagari

Inkulinati
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Inkulinati

ファミリー名:Inkulinati
分類:カスタム書体
クライアント:Yaza Games
リリース年:2021

ポーランドのYaza Gamesという独立系ゲームスタジオからの依頼で、新しいカスタム書体を作りました。Yazaはスタジオ初めてのゲームであるInkulinatiを開発中で(PCと家庭用機でリリース予定)、中世の欧州の装飾写本に出てくる動物たちが戦うターン制バトルのゲームです。日本風に言えば、鳥獣戯画バトルゲームといった感じでしょうか。中世写本の世界観が文字好きの私のハートにとても響きました。

ゲームに使われているのは二つで、一つはメイン書体でロゴも含めた大きなサイズに使用され、もう一つは小さいサイズのインターフェイス用です。その前者はブラックレターで、私の担当です。

独立形ゲームは大企業のものと比べてゲームプレイのみならずビジュアルにも個性が光るものが多く、ゲームのメインビジュアルである書体の影響は特に大きいと感じます。ゲームに使う欧文フォントは様々な条件をクリアしなければいけません。見た目は当然のこと、視認性、多言語サポート、価格、埋め込みライセンスなどです。ゲームのように歴史やファンタジーをテーマとすることが多いメディアにおいては、ブラックレターは珍しい選択肢ではありませんが、以上すべての条件をクリアするブラックレター書体はほとんどありません(特にロシア語)。

デザインにあたって、まずはゲームが基とする13世紀の装飾写本を大英博物館のサイトで調査しました。この時期にブラックレターは存在しましたが(手クスチューラ体とロトゥンダ体)、この当時の字形は様々な問題が浮上しました。それほど現代人に読みやすいものでもなく、細い線が多くてデジタル画面に安定して表示されず、また大文字も大振りです。このため、そのまま使うには不向きと判断しました。

その代わり、デザインの方向性は視認性やテキストの長さ、そして何よりこの話がくる前にゲームに使われていたSachsenwald書体(同じく私の作品で、そもそも私に話がきた理由)の雰囲気などを指標に決まっていきました。結果として生まれたのは20世紀風のデザインで、ルドルフ・コッホやベルトルド・ヴォルペの作風に近いようなものになりました。直線よりは曲線を多くして手作り感、手書き感を出しており、ヘアラインは極力排除することでデジタル画面への耐性を確保しています。小文字のaはやや珍しい形をしていますが、13世紀の写本から見つかった様々なバリエーションを試しながら、楽しい難産を経てこれに落ち着き、Yazaのデザイナーさんにも気に入ってもらえました。またブラックレターとしては珍しいキリル文字が追加されています。最近のゲーム用書体としてはほぼ必須な言語です。

Yaza Gamesの熱意とご理解のおかげで、ゲームの目的と個性に合った書体ができたと思います。現時点ではカスタム書体ですが、一般用にリリースも予定されています。ゲームの発売および書体の発売にご期待ください。