ドイツからやってきた書体制作ソフトGlyphs
03 November, 2012
え~、Arialの後編を期待されていた方もいらっしゃるかもしれませんが、それはさておいて今回は書体制作ソフトのお話です。後編はそのうちやりますから。
グラフィックデザインや文字組版では専らAdobeのCreative Suiteを使うのと同様に、書体デザイン業界ではFontLabというソフトほぼ一択となっています。もちろん他に選択肢がないわけではありませんし、和文書体のデザインでは伝統的にURWという会社のIKARUSというソフトが使われていますが、それは企業専用のようなもので、一般ユーザーに手が出る金額ではなく操作も非常に複雑だと聞きます(訂正歓迎)。FontLabも慣れるまでは非常に難しいソフトではありますが、その廉価版とも言うべきFontographerは日本語にも対応していて初級~中級者用としてはうってつけの存在と言えます。
欧米では先に挙げたFontLabの他に、これのアップデートのあまりの遅さに危機感を抱いた個人のデザイナーたちが作ったGlyphsとRoboFontという二つのソフトが頭角を現してきています。今回取り上げるのはGlyphsです。Fontographer(46,900円)より安価(26,000円)でパワフル、初心者にも使いやすいという三拍子揃った今一番ホットなフォント制作ソフトと言ってもいいでしょう。まさにFontographerキラーといえる存在です。なぜ取り上げるのかというと、今回のバージョンアップ(1.3.15)で遂に日本語対応したからです!翻訳してくれた人(T.Oさん)に感謝しなくては!
Robofontもいいんですが単体では完結していないので、必要な機能を補うための外部ソフトを全部揃えるとなると新品のスーパーカブが買えるぐらいの金額になっちゃうのでスルーします。だいたい日本語対応してないし。
GlyphsはIllustratorのような感覚で描画できますし、描画ビューとテキストビューが一体化していて、アウトラインを描きながらすぐに入力し、その場で調整ができます。また初心者には馴染みの薄い、フォント出力時にやらなければいけないこと(重なったパスの合体や極点の追加)など、諸々の面倒な作業は全部おまかせでやってくれます。もちろん自分でやりたい場合も可能です。
スペーシングの管理もGlyphsならお手の物。たとえばHの両脇のサイドベアリングを変更したら、通常は同様の形を共有する他の文字も変更しなければいけませんよね(例:BDEFHIKLMNPRの左側は同じ値でいい)。FontLabであればこれらは手動で個別に変更するものでしたが、GlyphsではたとえばDの左側のサイドベアリングに「H」とだけ入力すれば、Glyphsは「Dの左側はHの左側と同じスペースにすればいい」と解釈し、スペーシングを自動で反映してくれます。同様にDの右サイドベアリングに「O」と入力すれば、あとはOの右側と同様のスペースを維持してくれます。これだけでDのスペーシングは終了です(また「=H-5」などの計算式も受け付けてくれます)。
作業の自動化はこれだけに止まらず、該当する文字がファイル内に存在するとGlyphsはなんと自動的にOpentypeのコードも書いてくれます!リガチャもスモールキャップもユーザーが一切コードを書くことなく動いてくれるのです(OpenTypeって何?という説明はとりあえず今回置いときます)。たとえば「f_f_i」というリガチャがフォント内に存在する場合、自動的にligaフィーチャーや必要なクラスやら何やらを自動生成してくれます。Glyphs内でもテストできますし、フォント出力後にIllustratorやInDesignで実際に動いているのも確認できるでしょう。他にもアラビア文字やデヴァナーガリー文字、タイ文字などのOpentypeフィーチャーもボタン一発です。
何を言ってるのかよく分からない部分もあると思いますが、とにかく使いやすくて空気を呼んでくれるフォント制作ソフトなのです。Glyphsは書体デザイナーの負担を大きく軽減してくれるソフトで、これがあれば大概のことは事足りるでしょう。うちの会社のワークフローだと最終的にFontLabが必要なので途中で切り替えなければいけませんが、個人的にはアウトラインを書いてスペーシングするまではGlyphsを使ったり使わなかったりで、少しずつ依存度が増しています。
OpenTypeやら何やらよく分からないものは要らないという方には機能縮小板のGlyphs Miniもあります。どちらも日本のMac App Storeで購入可能で、Glyphsは26,000円、Glyphs Miniは3,900円です(フル版はMac App Storeでの取り扱いを廃止しました。App Storeからだと外部プラグインとか入れられないそうなので)。体験版は公式サイトからダウンロードできますし、気に入ればライセンス購入してそのまま使えます。マニュアルはまだ英語しかありませんが、こちらもT.Oさんによれば日本語版が出るとか出ないとか日本語版出ました(詳細は下記)。
以下にGlyphsのチュートリアルを用意しておきましたのでご覧になって下さい。これ以上詳しく知りたいという方は以下の方法があります:
- Glyphs公式サイトの日本語版ハンドブック(PDF)
- Facebookの「Glyphs日本支部」グループに参加
- Glyphs公式サイトのチュートリアル記事(英語)
- Glyphs公式サイトのフォーラムで質問(英語)
- 私にTwitterまたはメールで直接
この投稿のコメント欄は確認頻度が非常に低いのでタイムリーな回答は得られないと思います(すみません…)
14/03/10に動画一本追加