ファミリー名:Platia
種類:市販書体
ファンダリー:Omega Type Foundry
リリース年:2021
購入リンク:I Love Typography
Platiaはヘレニック・ワイドという書体ジャンルを自分なりに解釈した欧文書体です。ヘレニックとは「ギリシャの、ギリシャ語」を意味する言葉で、Platiaはギリシャ語で「広い(ワイド)」を意味する言葉となっています。またPlatiaは私の新しいファンダリであるOmega Type Foundryの最初の書体の一つでもあります。
ヘレニック・ワイドとは産業革命時代の欧米で人気を誇ったサブカテゴリであり、線幅のコントラストが低いスラブセリフで、とても字幅が広いことが特徴です。様々なファンダリから様々な名前でリリースされていましたが(Antique Extended、Ionic Expanded、Breite Jonischなど)、その中のHellenic Wideがその総称として最も一般的になっています。もっと知りたい方にはインドラ・クッパーシュミットさんの記事(英語)をお勧めします。図版も多いので見るだけでも参考になりますよ。
中でも一番好きなのがAntique Expandedです。RとQのテールは長くて美しく、スコッチ・ローマンの優雅さを保ちつつスラブセリフの線幅の強さも持っており、それでいて同時代のスラブにありがちな堅苦しさは目立ちません。といっても不満がないわけではありません。個人的には見せ場であってほしいRのテールが、サイズによっては割と低い位置でバッサリ切られている場合があります。AやMは文字のプロポーションが広いというより、ただ長いセリフを付けただけのようで文字本体は小さく見えます。また後年のAntique Expanded No. 2では小文字が追加され、この基本モデルがさらに後年のHellenic Wideにも引き継がれているようですが、線幅の強弱が付きすぎており、カーブもガタガタした印象があります。
デジタルでのHellenic Wideの現状を見てみると、昔のデザイン、ときには活版のラフな表情までもそのまま再現したもの(例:LonestarやMCM Hellenic Wide)、あるいはかなり現代風なデザインに寄せたもの(FF ZapataやFilmotype Wand)の両極端にあるような気がしました。私の欲しいデザインは骨格そのものは変えずプロポーションや線幅の抑揚を見直し、大文字と小文字の調和を図ったものです。
Antique Expanded No. 2では小文字が追加されていると書きましたが、この小文字にはaやrに円形のターミナルが見られます。こういった処理は昔なら当然のようなものですが、どちらかといえば先幅が均等なスタイルにはあまり合いません。小文字の線幅にたっぷり抑揚があるのはこの辺にも理由があるかと思いますが、何にせよ大文字と随分見た目が違う気がします。そこで大文字にも小文字にも使えて円形ではないターミナルを考えましたが、Rockwellのように完全にカクカクさせると優雅さがなくなりますし、完全に丸にするのも悪くはないですがボールド体で苦しみそうでした。今回は中間を取って、半分丸くて半分角張った形にしています(その上で微量の角丸処理)。こうすることで、普段あまり形に関連性のないKとaを見ても同じ書体だと分かると思います。
線幅のコントラストに関してAntique Expandedの均一な見た目が好きだと書きましたが、水平線の方が太いリバース・コントラストというジャンルが好みでもあります。欧文書体デザインでは通常、縦線と横線の先幅を同じに見せたいのであれば横線の方を少し細めにせよと教わります。しかしリバース・コントラストの姉妹品(例:French Clarendon)も多く見られるヘレニック・ワイドのカテゴリーにおいては、この基本は無視してもよいと考えました。Platiaでは、文字の構造が複雑になる場合のみ線幅を細くしています。もし目の錯覚で横線の方が太く見えてしまうとしても、いいじゃないですか。
ヘレニック・ワイドは私の中では見出し用書体のカテゴリーですが、同時にスペーシングで無駄が生じやすいスタイルでもあります。たとえばAAと並んだ場合、間のスペースが長いセリフのせいで大きく開いてしまいます。これを避けるため、短いセリフのバージョンを作って前後関係に合わせて自動に表示されるようにしています。Aの場合、通常の形と右だけ短い形、左だけ短い形、両脇とも短い形の4種類があります。結果としてPlatiaは長体なセリフ書体の印象は保ちつつも、同種の書体よりは字数をより多く詰め込めるデザインになっていると思います。
Platiaは欧文以外ではキリル文字とギリシャ文字をサポートしています。特に名前にギリシャを冠したカテゴリーであれば、ギリシャ文字を作らない手は無いでしょう。