ファミリー名:Plantin Now
ファンダリー:Retail typeface
種類:市販書体
リリース年:2025
購入リンク:MyFonts (通常版) Myfonts (バリアブル版)
Plantin NowはMonotype Plantinのデジタル改刻版です。バリアブルフォント版では太さとオプティカルサイズ軸に対応しています。
オリジナル版であるMonotype Plantin(製品番号110)は当時のタイプディレクターであったフランク・ヒンマン・ピエポントの元で制作され、1913年に発売されました。これはプランタン・モレトゥス印刷所で使われていたロベール・グランジョン作(1569)のグロー・シセロ活字をベースにしたと言われていますすが、実際に使用された印刷見本はPlantin制作当時に作られたもので、いくつかの字が作り直された後のものでした。特に小文字のaはオリジナルと大きく変わっています。また、後年のTimes New Romanの元になったとも言われています。
Plantinの魅力は人によって千差万別のようです。個人的にはあまり惹かれる書体ではなく、なんだか無骨でキャプション向きだという印象でした。しかし金属活字版、特に『指輪物語』に使われていたおそらく12〜13ポイントの組版を見たときに初めてその魅力を理解しました。やはり金属版は確認してみるものですね。
Plantin 110(レギュラーとイタリック)は他のMonotypeの活版書体と同様、使用サイズに合わせてデザインが異なる複数の原図が描かれていました。5〜6ポイントあたりの極小サイズ用、6〜9ポイントのキャプション用、10〜13.5ポイントのテキスト用、14〜72ポイントの見出し用の4種類になります。今回の復刻でもサイズごとにデザインを用意したかったので、キャプション用と見出し用の原図をデジタル化するところからスタートしました。本文様に関しては、金属版の本文用原図と純粋な補間結果との間にデザインとして有意義な差はあまり感じられず、補間で賄うことにしました。
この書体に関してはボールドにも触れておくべきでしょう。Monotypeのローマン体にはボールドやボールドイタリックがあまり良くない傾向があり、例えばBembo、Baskerville、そして今回のPlantinなどがその典型例でした。小文字のaやeのカウンターが上下均一化されて上品さを損なっていたり、プロポーションやスペーシングも全体的に大振りな印象があります。また小文字mの二つあるカウンターはそれぞれnのそれより狭くなるべきが、ボールドでは広くなるなどの現象が見られました。このような理由から、ボールドの原図は使わず新規に書き起こしています。
公式の立場での書体の復刻には、アーカイブの資料をすべて見られるなどの利点もある一方で、公式であるがゆえに制限のある部分もあります。Plantinでいえば前述した小文字のaや、ルネサンス風というより英国風なイタリックのデザインは、正すべき間違いだという人もいるでしょう。現に私のレディング時代の師でもあった書体デザイナーのヘラルト・ウンガー氏からは「Plantinをやるなら、あのaは修正した方がいい」と言われました。しかしこれらは書体の個性の一部となった部分であり、公式の復刻では手を出すべき部分ではないように思われます。一方で自分もボールドなどは破棄しているので、原典への責任感は人それぞれだとは思います。他のデザイナーがPlantin Nowを制作していたら全く違う書体が出来ていたでしょう。公式といえども解法は担当する人の数だけ存在します。