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Forte Forward
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ファミリー名:Forte Forward
種類:バンドル書体
ファンダリー:The Monotype Corporation
リリース年:2022
Microsoft Office 365の追加ダウンロード書体として使用可能(現状は市販しておりません)

Forte Forwardは見出し用のスクリプト書体で、Monotypeの名作スクリプト書体であるForteの生誕60年を記念して作られた改刻書体です。

原作のForteはオーストリアのレタリングアーティスト、イラストレーター、画家のカール・ライスバーガー(Karl Reißberger)がデザインした書体です。終戦後の貧困にあえぐ50年代ウィーンの自宅で、キッチンのテーブルを作業台にして作られたと言われ、氏の送った2つのデザインのうち片方が採用され、1962年にForteとして発売されました(もう片方は原図としてのみ現存)。ライスバーガーのデザインした活字書体は後にも先にもForteのみです。

Forteやライスバーガーについてもっと知りたい方は、以下のリンクをお勧めします:
On the traces of the Forte
Finding Forte
Slantedから出版されたFinding Forteの本
Finding Forte展1Finding Forte展2
ライスバーガーの絵画

Microsoft Officeユーザーの方には、Forteは馴染み深い書体かもしれません。金属活字書体としても確かに人気は高かったのですが、1997年にMS Officeパッケージにバンドル書体として追加されると使用頻度が爆発的に増え、学校のプリントから新聞の広告、お店の看板まで幅広くForteを見かけるようになりました。Forteは「強い、強み」という意味で、実際に見た目も太くて強いため、名前が有利に働いたことも一因だと思います。同じくOfficeに同梱されたことで大変有名になったImpactも、やはり名前のイメージ通りにインパクトのある書体なので、この二つはある意味で兄弟分といえます。

Forteの改刻のストーリーは2017年、ウィーン在住のグラフィックデザイナーのトム・コッホ(Tom Koch)さんと、ライスバーガー氏の娘さんのマーラさんが、Forteの残存資料を見るためにMonotypeのアーカイブを訪れたところから始まります。ここで当時の原図や手紙などを見られて大変感激してくださった二人は、これをいずれ展示したいと考えるようになりました。一方で私の心の中には、Forteを作り直してみたいという野望が宿りました。特に2022年はForte発売の60周年でもあります。この年に合わせて展示と復刻書体の披露が揃うように、それぞれが動き始めました。

1. 長方形ボディ制限

上記「On the traces...」リンクで見られるように、ライスバーガー氏の原図はMonotypeの機械上の制約、すなわち四角いボディの中に文字を収めるというルールに厳密に従って描かれています。このため、たとえば小文字のfやrは右側から押しつぶされたような見た目をして、他の文字より正立してしまっています。またTの右側が短いのも同様の理由からです。この条件の中で描かれたライスバーガー氏のデザイン能力は驚嘆に値する一方、やはり息苦しいデザインなのは否めません。改刻ではこれを解放して、より自然なスクリプト書体を目指すのを最初のゴールとしました。(金属活字に詳しい方ならば四角ボディをはみ出す処理が可能だったことをご存知でしょうが、ForteではこれはAからzの基本部分では完全に回避するようデザインされ、íなどのアクセント文字でのみ使用されています。はみ出し処理は大量にあると扱いづらく、基本設計に盛り込むのは避けた方が良かったのだと思います。)

2. 線の強弱と筆の向き

Forteの文字はmやnなど、急に太すぎるものが混じっています。またForteは楕円状の筆のような筆記具で書いた形状をしていますが、この向きが整っていません。これはMonotype鋳植機のデザイン制約からくる妥協と見れば納得のいく処理ではあります。ストローク始筆と終筆が極端に尖っている部分もあり、このあたりも同じような丸さで整えました。

3. 未収録の文字、やっつけ文字、新しい文字

パソコン時代の初期にデジタル化されたMonotype書体にありがちなこととして、標準文字セットから外れる特殊なグリフは捨て去られていました。Forteの場合はtzやckなど様々な合字がそれにあたりますが、これらがすべて復刻されることとなりました。また最初期の原図には3の異体字やドイツ語で使うウムラウト記号が複数案あり、そもそも金属版でもボツになっていましたが、これらも全て贅沢に盛り込んでいます(そのうち一つは本来nとuを書き分けるためにūと書くための横棒でしたが、ウムラウトの異体字として収録しました)。またデジタル書体初期はとにかく出せば出すほど売れた時代で、書体の質より数が重要でした。このため金属活字時代に存在しなかった@ © # ™などの記号は、書体に合わせてデザインするのではなくTimesやArialなどの既存書体からそのままコピペするのが一般的でした。これもForte Forwardでは全面的に描き直されています。またオールドスタイル数字やテキストの流れを改善するための前後関係依存のオルタネート文字、さらにライスバーガー氏のイラストなど(自画像含む)も収録しています。

まとめ
Forte Forwardは原作の雰囲気を踏襲しつつ、消化不良と感じた部分を現代的な看板職人書体のような目線で見直し、改刻した書体です。字の傾きや太さ、スペーシングは細かく見直され、自然な流れになりました。一見するとForteと変わらないように見えると思いますが、並べてみると一目瞭然です。