Toshi
Omagari

Équivoque
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ファミリー名:Équivoque
種類:市販書体
ファンダリー:Tabular Type Foundry
リリース年:2021
購入リンク:I Love Typography

Équivoqueは見出し用の等幅欧文書体で、発音記号がすべて同じ形をしているのが最大の特徴です。equivocalとは英語で「曖昧」という意味ですが、ambiguousとは違って選択肢が複数ありうる曖昧さのことを指します。Équivoqueはそのフランス語訳で、発音記号があるため、この書体で組めば特徴がすぐに分かります。

欧文の発音記号に関してこだわる書体デザイナーの方は少なくありません。品質の悪い発音記号は読み心地も悪くなるうえ、場合によっては他の単語との混乱を引き起こしかねません。そういう意識で発音記号に接する人が、少なくとも私の考える良い欧文書体デザイナーの条件です(さもなくば英語書体デザイナーです)。とはいうものの、欧州の街中を歩くと発音記号が本来の形をしていない看板などが非常に多く、街の人もそれで全く問題なく生活できている現状もあります(Flickrの風変わりな発音記号デザインのアルバム)。多くの場合、発音記号は所定の文字についてさえいれば形はあまり大事ではないようです。この見方はATypIのDavid Jonathan Rossの講演『発音記号の作り方』でも触れられています。もちろんこれは看板やポスターなどの短い文章に言えることで、それを長文として読まされるとイライラするかもしれませんが。

Équivoqueの発音記号の統一化というアイデアはどんな書体でも使えるので(ただし本文用書体は除く)、それに合うスタイルを探し当てるのがこの書体のプロセスの中で一番大変だったかもしれません。多くの試作を重ねた結果、スペーシングがキツめな等幅書体に落ち着きました。同じ形の発音記号というやや不親切なコンセプトにはこれが合っていると感じたからです。

また発音記号がすべて同じということは、同じ形のグリフが多数収録されることになるため、サポート言語数の豊富さに対して書体のサイズを抑えることができます。フォントでは1つのグリフにUnicodeコードポイントを複数与えることができ、その一般的な例はオールキャップの書体のAに小文字のaの値も付加しておく(そしてフォントにAの形のグリフは1つだけ)というものです。一般的には2つの値までしか収録しないものの、実際はいくらでも追加できますので、多いものでは1文字で11もの値を備えているものもあります。

発音記号が同じだと短い文章まではいいかもしれませんが、書体としては機能するのでしょうか? 私はすると思いますが、答えは出ていないと思いますし、「機能しない」と決めつけるよりは人々に問いかける方が面白いと思いました。この書体の制作中にも様々な人に見せましたが、好意的なものから保守的なものまで様々で、同じ言語内でも合意は見られません。しかしこの書体で組まれたテキストを読んでて実際に複数の単語との混同が起きたとしても、真面目な書体でないことは明らかだとは思うので、大丈夫だとは思います(混乱は絶対に悪だとは思いません。楽しもうじゃないですか)。

もちろん、この書体で発音記号の多い文章を読めるかどうかには読み手の知識、文章の内容、そして組まれている言語に大きく作用します。例えばドイツ語ではウムラウト ¨ しか使われないので、どんな形であっても読み間違いは起こりません。一方でベトナム語では8種類の発音記号があり、その多くが1文字に重ねて使われます。ベトナム人の知り合いにもÉquivoqueで組んだテキストを読ませてみると意見は分かれましたが、初見の印象よりは遥かに読めるというのは共通したようです。また発音記号の数まで隠されると本当に読めなくなるそうなので、それは残すことにしました。

最後になりますが、Équivoqueには標準的な字形の発音記号は収録されておりません。