Toshi
Omagari

Cowhand
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名前:Cowhand
種類:市販書体
ファンダリー:Monotype
リリース年;2015
購入リンク:MyFonts

Cowhandは見出し用書体で、入力した単語を自動的に同じ幅に収めます。単語の文字が1文字だととても広く、2文字だと各文字が半分ずつになります。上限の20文字となると、かなりぎゅうぎゅうな見た目になります。複数の単語を1ブロックに納めたい場合は分裂禁止スペース(Macではoption+space)を入力してください。この書体はMonotypeのフォントマラソンという3日間で書体をデザインする企画の中で作られました。

Cowhandのアイデアは中国の書道芸術家のシュー・ビン(徐氷)氏の作品に着想を得たものです。シューさんは英単語を漢字のように書くことで知られており、見た目は漢字の文なのに読んでみると英語という作品が多いです。漢字は表意文字というだけあり、基本的に一つの意味が一つの形に収められています。このことから、シュー氏のアイデアをタイポグラフィで表現すべく「一単語が必ず一つの図形に収まる書体」を思いつきました。

この書体についてスタンリー・キューブリックの映画「博士の異常な愛情」に影響されたかと言われることがありますが、リリースの4年後ぐらいまで全く見たことがありませんでした。素晴らしい映画ですし、確かに自在な字幅で両揃えで書かれたオープニングクレジットが見られます。オススメですよ。1度目は普通に見て、2度目は解説などを少しでも読んでから見ると味わいが増します。

このアイデアを初めに試したのはレディング在学中の2010年でした。アイデアは完成品と同じで、字数が異なる単語を全て同じ単位の幅に落とし込むというものです。例えば6文字までサポートしたい場合は、各文字につき字幅の違う6つのばジョンを用意しなければいけません。上限が6文字だとあまり楽しくない一方、すべての文字を6バリエーション描くのは簡単な話ではありませんでした。まだGlyphsが登場する前でプロの書体デザイナーにもなる前の話です。理屈としては可能でしたが技術的な壁が厚すぎました。数年後にGlyphsが登場したおかげでアウトラインの補間がやりやすくなり、またPythonを勉強したことにより作業の自動化が非常に簡単になりました。そんなある日にフォントマラソンの話を持ちかけられ、このアイデアに再挑戦することに決めました。

マラソンの準備段階として、このアイデアに求められる条件を満たすスタイルを探るスケッチを繰り返していました。単語が綺麗に両揃えするためには左側と右側が綺麗に揃う、すなわち左サイドベアリングと右サイドベアリングが同じにならなくてはいけません。かつ字数と単語幅の関係を固定するために等幅にもなる必要があります。また字幅が大幅に変わるとなると、線幅も大きく変わるため太いデザインは向かないようでした。等幅書体特有のスカスカ感を和らげて単語が塊と見えるような工夫も必要です。そうして行き着いたのが、上下端が太くて中の細い、いわゆるウエスタンとして知られるスタイルでした。

単語幅は6000ユニットとし(全角6文字分)、20文字までサポートすることにしました。20個のオルタネートを作るには最も広い6000ユニットのデザインと最も狭い20文字用の300ユニットのデザインを書き、ここからGlyphsのスマートコンポーネント機能を使って全てのグリフを自動生成します。文字によっては中間のデザインを改善するために中間マスターも用意しています。またスペースの都合により途中でデザインが完全に切り替わるケースもあります。ドル記号は縦棒2本から始まりますが、狭くなるに従って1本、最終的に中は抜きとなります。

この基本のアイデアが機能し始めると、今度はLTのように大きく字間のあくペアにも目を向けました。通常の欧文書体ではカーニングという処理でこういった例外的な字間は改善させるのですが、等幅書体でカーニングしてはいけません(等幅の意味がなくなります)。しかし固定しなければいけないのは字幅だけで、デザイン自体は変えられます。というわけで、このようなケースは通常より横に伸びたデザインを呼び出すことで解決しています。Aなどは右にも左にも、そして両方にも伸びる可能性があるので、このスペーシング対処用に合計3つのオルタネートがあります。かくしてCowhandは世界で初めて「カーニング」機能を搭載した等幅書体となりました(大曲調べ)。

現在ではテキストボックスに収まるためにアグレッシブに字幅を変化させる書体は他にもあり、DJRのFitなどはその代表例です。Fitはバリアブルフォント機能を使っていますが、Cowhandは自動で特定の幅に収まるもので、またバリアブルフォント以前に作られた物でもあります。Cowhandが技術的に劣っているとか古いというわけではありませんが、バリアブルフォントの柔軟性は備えていません。これは将来の課題でしょうか。