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Alcarin Tengwar
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ファミリー名:Alcarin Tengwar
種類:オープンソースフォント
リリース年:2022
ダウンロード先:Github

Alcarin TengwarはBrillにスタイルを合わせたテングワール文字の書体です。Brillは学術文書向けの書体で、強力なOpenType機能があり、非商業の利用には無料であることから、制作意図の通り学術文書で人気があります。Alcarin Tengwarも元々はBrillの愛用者である言語学教授のエドワード・コロツコ氏からの依頼によって作られたものです。

テングワール文字はフィクション作品のために作られたにしてはとても洗練された文字体系で、似たような例であり欧文のコピペのようなスター・ウォーズのオーラベッシュやスタートレックのクリンゴンと比べると、ずっと手の込んだシステムを備えています。テングワール自体の長い説明は他のサイトなどを読んでもらうことにしますが、作者であるトールキン氏の死後も熱心な言語学者たちが研究を続けており、今でも新しい文献が出てくるなど活発なコミュニティがあるようです。特に不定期に刊行されるパルマ・エルダランベロンという学術誌が今回のリサーチの要となりました。テングワール文字を特に一杯見たい場合は第20号がおすすめです。なかなか簡単に買いづらい文献ではありますが。

文字セット
テングワール文字はUnicodeには登録されていませんが、私用領域を用いた非公式のコードページ集には存在します。しかし前述のとおり研究材料が出尽くした文字ではなく、トールキンの遺物の山からは新しい字がまだまだ見つかる現状のようで、文字セットとOpenTypeの仕様のターゲットは動き続けています。このプロジェクトではコロツコ氏の多大な協力でとにかくいろいろ放り込んでみましたが、大文字のサポートには至っていません(今回は不要だったため)。

デザイン
一般人からすると、テングワールの魅力はその見た目にあるのではないかと思います。どこか中世の欧文の書風のような雰囲気があり、書体によってはカロリン体のようだったりルネサンス期のイタリックのようなものもあります。文字によってはギリシャ文字やアラビア文字に類似のものがあったりもします。普通の欧文カリグラフィ用のペンで簡単に書くことができ、読めないながらもどこか親しみやすい要素があると思います。トールキンもカリグラフィを嗜んでおり、彼自身多くのテングワールの書風を開発して残しています(前述の学術誌20号に多く見られます)。ところで彼がこれらの開発に傾倒するようになったのは1910年で、1906年に出版されたエドワード・ジョンストン(どちらも英国人)の有名なカリグラフィ指南書「Writing & Illuminating, & Lettering」の影響は大いにあったのではないかと思います。

これまでもテングワールのデジタル書体はありましたが、どれもカリグラフィ的すぎて活字っぽさが弱いか、逆に機械的・幾何学すぎてカチカチとしたデザインのどちらかしかないようでした。今回の書体のスタートとしてはまずカリグラフィから始め、ジョンストンのファウンデーショナル体に近い見た目のスタンダードそうなものを練習しました。既存書体でいうとTelcontarのようなスタイルです。そこからBrillのハイト設定やディテール処理を参考に、「中つ国に活字鋳造所があったらどんな書体を作っただろう?」と妄想しながら、新しい書体を作り上げていきました。Brillの要素をコピペして作ったわけではありません(他の文字をそういう風にツギハギ的に作ると失敗します)。

ちなみに手作りのボールド体もあり、テングワールとしては初めてのバリアブルフォント対応をしています。レギュラーとボールド間の補間だけですが。

OpenType
テングワールの表記方法は自然進化した文字のように多様です。使用言語と表記モードによって、一音一時の対応がしっかりした割とシンプルなシステムにもなりますし、発音記号や合字を多用するシステムにもなります。そのため従来はOpenTypeではテングワールのサポートには不十分とされ、フリーのテングワール書体のコミュニティではSILのGraphiteエンジンが採用されていました。私はこれを覆して、OpenTypeでちゃんと動くテングワールを作りたいという野望もあって、そもそもこのプロジェクトを請けていました。今回それは達成できたと思います(未実装な機能もあるかとは思いますが、少なくとも技術的な理由で諦めたわけではありません)。以下はその機能の一部です:
・文字の上下に発音記号を個数・順番無制限に積み重ねて表示可能
・文字によっては発音記号が付随する際に、スペースを確保するために専用のオルタネートを使用(上記画像5ページ目)
・数多くの合字
・さまざまな数字の表記モードへの対応(傍点法、傍線法、混合法、12進数、ルミリアン数字)

(あとはOpenTypeの言語タグに架空言語を指定できれば最高なんですが…)

書体名
Alcarinとは上エルフ語であるクエンヤ語で「素晴らしい」を意味します。英語でいうbrilliantの訳で、Brillとの分かりにくいささやかな繋がりを含んだ名前です。

リリース形式
Alcarin TengwarはOpen Font License形式のオープンソースでGithubから利用可能です。Mac用のカスタムキーボードやマニュアルなども含まれています。

注意事項
BrillフォントはKoninklijke Brill NVが所有しており、こちらはOFLではなく商用・非商用ともに独自のライセンス形式で提供されています。非商用ダウンロードリンク購入リンク

Alcarin TengwarはKoninklijke Brill NVともトールキン財団とも公式な関係はありません。また、フォント内にはBrill書体のアウトライン等のグラフィックは一切流用しておりません。