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Albertus Nova
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ファミリー名:Albertus Nova
種類:市販書体
ファンダリー:Monotype
リリース年:2017
購入リンク:MyFonts

Albertus Novaはは2017年にリリースされたベルトルド・ヴォルペ・コレクションという復刻書体群の一つです。大元のAlbertusはヴォルペによってデザインされ、Monotypeから1935年に金属活字書体としてリリースされた碑文系書体です。セリフのような形状の末広がりの字画が特徴で、英語ではこういった形のものはflare serif(フレアセリフ)と言います。

ベルトルド・ヴォルペは1905年生まれで、レタリングアーティストおよび教師としてドイツのオッフェンバッハで活躍していました。しかしユダヤ人であったヴォルペはナチス党の台頭により教職を追われ、英国に移住しました。そこでMonotypeのスタンリー・モリソンと出会い、ドイツ時代に手掛けた碑文のスタイルに合わせて活字書体を作るよう依頼されました。

この書体は大文字のみの見出し用書体としてデザインされ、1935年の発売後すぐに成功を収めました。もともと単身で渡英したヴォルペは、Albertusで手に入れた資金を使ってドイツに残されていた家族をみんな連れてくることに成功したそうです。書体が人命を救った素敵なエピソードですね。

Albertusはその後すぐに小文字や小サイズ版が追加され、さらにはボールドとライトのウエイトが追加されました(ボールドには小文字がありません)。書体は特に英国で多く使われ、書籍の装丁、ポスター、企業や自治体の制定書体、路上標識などに登場しました。テレビや映画などの映像メディアにも多く使われました。英国のテレビドラマ『The Prisoner(プリズナーNo. 6)』は三叉フォーク型のe が特徴的なカスタムデザインのAlbertusで知られます。映画監督のジョン・カーペンターにはホラー、自ら作曲するサウンドトラック、そしてカート・ラッセルなど、彼独特のキーワードが様々ありますが、クレジットに多用するAlbertusもその一つで、『遊星からの物体X』、『ニューヨーク1997』、『ゼイリブ』など8作品に登場します。線幅のコントラストが低いサンセリフのような太さのおかげで、昔の映像作品では視認性が良かったからかもしれません。最近だと『ロードオブザリング』映画の各作品のサブタイトル(Fellowship Of The Ring)などに使われています。

今日まで人気であり続ける書体ながら、Albertusはとても限られた書体で、現代の使われ方を見ているとファミリー拡張の必要を強く感じました。そして現状作られていた部分は品質に疑問が残る部分も多いです(特にライト)。形がおかしいと感じた部分はヴォルペの意図なのか技術的制約からくる妥協なのか不明な部分も多く、Monotypeアーカイブとロンドンのタイプアーカイブに残る原画などを調べたくなりました。この調査は興味深い発見に満ちていました。昔からAlbertusはローマンキャピタルとブラックレターの混成書体のように感じていましたが、最初期のスケッチではロトゥンダ体のようなデザインで、本当にブラックレターの方向性で進んでいたことが分かります。また小文字のgの妙な形は、元のデザインから何度も描き直されてできた妥協の塊であったことも分かりました。

これらアーカイブや非公式のバージョンの調査で吸収した知識を元に、ヴォルペのデザイン意図により忠実ながら現代のデザインのニーズを満たすことができる最高のバージョンを目指して復刻版をデザインすることにしました。まず大文字と小文字はもともと違うタイミングで作られたためウエイトとスペーシングにおいて差が大きかったのですが、これをオリジナル版から逸脱しない程度に修正しています。もともと存在したLightウエイトはよく見るとガタガタだったので、これは全面的に描き直しました。一方でボールドは大文字しか存在しなかったので、追加された要素としてはタイトル組み用のスモールキャップ、様々な異体字、ギリシャ文字とキリル文字、そしてウエイト数も5に拡張されています。

リリース以降は元祖Albertus同様にさっそく様々なメディアに使用され、嬉しいことに2019年版の『ライオンキング』などの映像作品にも登場しています。ジョン・カーペンターに使ってもらえたら感無量なのですが、新作を撮ってくれないでしょうかね。