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アポストロフィのスペーシング

24 July, 2014

ちょっと文法寄りの話。

Elision-spacing

道路標識のスペーシングは酷いしアポストロフィに発音記号のアキュートを使ってるなど本筋と関係ない問題もいろいろありますが、それはさておきます。

フランスのナンシーでこんな道路標識を見つけて、アポストロフィのスペーシングが気になったので撮っておきました。フランス語では名詞が母音で始まり、かつ冠詞(le、duなど)がその前に付く場合は、冠詞の母音をアポストロフィで省略し、単語をくっつける「エリジオン(elision)」という処理をします(例:le eau → l’eau)。またフランス語でHは発音しないことも多々あるので、そのような場合はHの前でもエリジオンを行います(例:d’Haussonville)。この標識では間にスペースが入ってますが、本来は間違いです。判別性を意識して単語を分けることを優先した結果なのかもしれませんが。

このアポストロフィは冠詞の母音を省略しているので、lやdに属します。前述のとおり、その後にスペースを入れるのはおかしいのですが、それでも詰めすぎるのも好まれません。たとえば ’A’ ’H’ ’L’ などアポストロフィと大文字とのスペーシングは初期状態だとバラツキが多いのでカーニングで詰めることが多いのですが、l’Americanの’Aは詰めてほしくないというフランス人のタイポグラファも多いようです。もうちょっと簡単に言えば、フランス語ではアポストロフィの後の空間はすこし緩めが好ましいということです。これは同様のエリジオンがあるイタリア語にも当てはまります。L’ で始まる単語はアポストロフィが次の文字に寄りがちですし(例:L’affaires、L’enfant)、内容によっては次の字が大文字にも小文字にもなり得ます。ネイティヴの組版者であっても見落としやすいチェック項目です。

しかし話はこれだけでは終わりません。後ろのDomino’s Pizzaを見てください。いま私の説明したスペーシングがここにも反映されているように見えますが、これは英単語ですので、スペーシングの考え方を変えなくてはいけません。しかしフランスでのDomino’sは自然とこうなっちゃうんでしょうね。

所有格の-’sは英語でのエリジオンですが、これは昔は-esと書かれていて、そのeが省略されているわけです。つまりアポストロフィはsと近い方が正しいと思います(アポストロフィの前を空ける必要はありませんが)。個人的にはアポストロフィはちょうど中間に見えればいいとおもいますが、少しs寄りになっているのは構いません。’sが空いているのはマズいと思います。

所有格のアポストロフィがどちら側に属するのかという知識は横書きではあまり重要ではありませんが、縦だと必須になってくると思います。英語圏でも縦書きの看板のどこにアポストロフィを付けるのかは見解が分かれるようですが、私は上に述べた理由からsと切り離すべきではないと思います。

縦書きアポストロフィの扱いは英語圏でも様々で、個人的には同意しないものもあります。興味のある方はこちらをご覧ください。

lAffaires&Dominos

こんな感じのスペーシングが見たかったです。

ここからは技術的な話です。すこし戻って、フランスとイタリアのアポストロフィのスペーシングの違いに、書体デザイナーはどう対処できるかを考えたいと思います。一つ目の方法は’Aなどのカーニングを始めから緩くしておく方法ですが、これだと他の言語も影響を受けますので、あまりお勧めしません。またカーニングには「l’Aと並んだ時は’Aのスペーシングを違うものにする」など、2文字以上が絡むカーニングも存在しますので、それを使うといいでしょう*。言語や好みの問題とは別に、L’と’Aがキツめに詰まっている書体だとL’Aは下が足がくっついてしまう場合がありますので気をつけた方がいいです。ご興味のある方はGlyphsでの実装法のリンクを張っておきますが、日本語で説明してほしいという方がおられましたらどうぞコメントください。

* カーニングをよく「ペアカーニング」と呼ばれる方がいますが、カーニングは2文字(ペア)より多い発動条件を指定できますので、ペアカーニングという言葉には何も意味がないと思います。この言葉が生まれた経緯は知らないのですが、ひょっとしたらカーニングとトラッキングを同義としていた時期なり業者なりがあって、「カーニング(全体のスペーシングすなわちトラッキング)」に対するローカルな調整として「ペアカーニング」という言葉が生まれたのかもしれません。この辺の言葉がいつ日本で使われ始めたのか全く知らないがゆえの推測ですので、ここに関しては無茶苦茶なことを言っているかもしれません。ご意見歓迎いたします。

以上の二つの方法もとりあえず問題ないのですが、気になるのはなにもAだけではありません。本当ならどの文字に対しても少し緩めのスペーシングが発生するのが理想です。一体どうすればいいでしょうか?Adobeは面白い方法で実装しています。Garamond Premierにはサイドベアリングが多めに設定されたフランス語、イタリア語専用のアポストロフィのオルタネートがあるのです(InDesignなどで当該言語を指定していると自動で使われる)。ただしアポストロフィは引用符にも使われるので、そのぶんキツめにカーニングしなければいけないグリフの組み合わせはありますが、賢い方法だと思います。

最後に画像でのまとめ。

Different-apostrophe-treatments

画像を作ったあとに思ったんですが、やっぱりArnoのL’Aはフランス語であってもAに寄りすぎな印象はありますが、これは書体デザイナーが面倒を見るべきレベルを超えている気がします。自分が組版者だったらもっと左寄りに調整すると思いますが、書体デザイナーとしては…どうでしょう?将来的にはやるかもしれません。

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