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小文字の高さは何と呼ぶ?

26 September, 2012

先日発刊された「書体の研究 vol.11」やそのUstreamで触れられた小文字の高さの名前についてのブレについて考えたいと思います。こちらのブログでもかなり丁寧に追いかけられてて読み応えがあります(12)。

小文字の高さの名前にはx-heightという一番メジャーなものがありますが、他にはlowercase height(小文字高)というそのまんまの名前もあるにはあります(x-heightの方が言いやすいのであまり使われてないですが)。特にその線の名前については非常にブレが大きいです。そのブレの根元にはカリグラファーとタイポグラファーの用語の違いと混乱があるようです。上のブログでは「それぞれどう説明されているか」を調べていますが、僕は「そもそもどうして今の状況ができたのか」という視点で考える事にしました。

まずは一旦全部挙げてみましょう。
○○○ lineとして呼ばれるもの
・waist line(ウェイストライン。カリグラファー用語)
・mean line(ミーンライン。タイポグラファー用語)
・headline(ヘッドライン。超レア)
○○○ heightとして呼ばれるもの
・x-height(xハイト)
・lowercase height(ロワーケースハイト)
両方で呼ばれるもの
・x-line, x-height, x-height line

mean lineはmean heightと呼ばれたりはしませんし、waist lineもwaist heightと呼ばれたりはしません。上にも書いたように活字の世界ではx-heightが一番多く使われますが、カリグラファーはwaist lineと呼びます。ここでまず面白いと思ったのはline(線)とheight(高さ)の違いが業界の違いでもあるということです。

(注意:今回は推測の分量が非常に多いです!)

「線」と「高さ」の違い

カリグラファーはまず文字を書く前に、これから書く書体に合わせた基準線を紙面上に引きます(尖筆や鉛筆で)。すなわちアセンダ、大文字、小文字、ベース、ディセンダーの4本の線です。フリースタイルな作品でない限りこれは必ずやることですので、線に対する意識が強いのだと思います。だからこそ小文字の高さではなく、その「線」への言及が最も多いのではないかと。かたや書体デザイナーやタイポグラファーにとって小文字の高さの線はただの仮想線であり、特に近年であればx-heightを数字で設定したりはしますが実際に線を描く訳ではありません。線はソフトによって始めから引かれています。小文字の整列具合の話をするときなども「x-heightが揃っている、揃ってない」などという会話はしますが、「○○ lineが綺麗に出ていない」などということはまずありません。「線」よりも「高さ」という概念の方が重要なのです。タイポグラフィ用語としてあの線はmean lineと呼ぶことはありますが、waist lineとは呼びません。またx-lineとかx-height lineと呼ばれることもありますが、それはmean lineという言葉を知らない人が作った造語なんじゃないかと思います。

英語の文献であっても「mean lineはx-heightと呼ばれることがある」なんて書き方をしているものが少なからずありますが、これはどう考えても変です。lineとheightでは指す部分が全然違います。上手くいえませんが標高と等高線を同じだと言うような頓珍漢なことではないかと。

なぜxか

ところで、なぜxなのでしょう?なぜnでもtでもeでもなくx?これはローマン書体の中から、小文字の高さにピタリと収まる文字を消去法で探せばxになるからです。まずbdfghijklpqtyという、アセンダやディセンダのあるものは除外。次にベースラインないしxハイトを越えるものは除外。例えばoやe、nなどは丸い部分があり、視覚調整のために上下に少しハミ出るようになっています。vやwも下が尖っていて、これがベースラインに完全に乗っていると浮いたように見えるので、やはり少し下に伸ばします。また小文字のiのステムも、上端が斜めになっていることが多く、どこにxハイトが来るのか曖昧なので除外。こういう理由で、aceimnorsuvwが消えます。残るのはxとzですが、zはセリフが付いたときにハミ出ることがあるから除外でしょうか。どんな書体でもほぼ確実に上下が水平になるのがxなのです。実に合理的ですね。

しかし、ちょっと待ってください。これはローマン体(活字書体)だけに当てはまる話です。カロリンジアン・ミナスキュールやブラックレター、イタリックにカッパープレートなど数多くのカリグラフィー書体を見れば、xの高さが素直にこの幅に収まっていることなど稀であって、もし収まっていることがあったとしてもそのときはnやiなども収まっています。カリグラファーの視点から言えば、xが基準になるはずがないのです。仮にカリグラファーが小文字の高さの名前を特定の一文字から命名したとしても、それだとxではなくnやiを選ぶのがずっと自然だったでしょう。カリグラファーの西村弥生さんに聞いてみたら、そのまんま同じ御意見が返ってきました。曰く「xハイトという言葉は普通に使うけど何故xなのかは納得いかない。iやnの方が合ってるのに」とのことです。どうやらxハイトという言葉はタイポグラフィの業界で生まれてカリグラフィの世界に輸入された言葉のようです。

同じくカリグラファーであるDavid Harrisの『The art of calligraphy』では、「小文字の高さの線はheadlineまたはwaist lineと呼びますが、タイポグラファはx-lineと呼ぶようです」と書いています(x-lineはタイポグラフィ用語をカリグラファ的に解釈した造語な気が…。ちなみにheadlineと呼ぶ例はここ以外に見た事がありません)。

ここでちょっと過去の事例を挙げてみましょうか。
17世紀のイギリスの活字彫刻家、印刷家、その他何でも屋だったジョゼフ・モクソンは著書の「Mechanick Excercises (1703)」で「short lettersの高さ」と呼んでいます。xハイトという言葉はまだ使ってませんし、そもそもlowercaseという言い回しもまだ無かったか共通語ではなかったようです。
18世紀のフランスの活字彫刻師ピエール・シモン・フルニエも「Manuel typographique(1764)」で「les courtes(小さい字)」と、同様の呼び方をしています。まぁ英語じゃないのでこの話にはそんなに関係ないかもしれませんが(lowercaseは英語特有の言い方です。小文字はフランス語だとminusculeですしね)。
カリグラファー、書体デザイナーのエドワード・ジョンストンも彼の著書『Writing, illuminating & lettering(1917)』ではline of small letters。余談ですが「lower case」という言葉は既に使われていたようです(これも、自分はsmall lettersと呼ぶが印刷屋はlower caseと呼ぶらしいといった感じで)。

いったいx-heightはいつ誰が作った言葉なのでしょうか。まだハッキリとは分かりませんが、どうやら20世紀になってからのようです。これに関しては追って調査を続けます。

追記:60年代中盤に入社した僕の上司(ロビン・ニコラス)によりますと、当時はlowercase heightと呼んでいて、誰もx-heightという言葉は使っていなかったそうです。ロビンはx-heightが最近になって出来た言葉だという感覚を持っているそうです。話を聞く限り、どうやらイギリス生まれの言葉ではなさそうです。おそらくは60年代以降にアメリカで生まれた言葉ではないでしょうか。

mean lineの謎

タイポグラフィ用語としてのxハイトの線の正式名称はmean lineです(少なくとも自分はそう習いましたし、x-heightやx-lineといった用語以外ではmean lineを一番よく見かけます)。ちなみにカリグラファーはmean lineとは言わないそうです。meanは意味の多い言葉ではありますが、ここでの意味は「中間、平均」ということでしょう。個人的な考えでは、これは単にベースラインとキャップライン(大文字の高さの線)の間にある線、つまり小文字の高さの線を指していただけの事で、数学的に中間という意味ではなかったのではないかと思います。mean lineにはもう一つ定義があって、本当に文字通り「大文字の高さのちょうど真ん中を通る線」というのがありますが、正直こんなもん書体デザインやってて何の役にも立ちません。おそらくはどこかの頭でっかち(たぶんタイポグラフィを実践してない人)が「中間なんだから文字通り中間だろ!」といった具合に「大文字のちょうど真ん中の線」という意味を発明したんじゃないでしょうか?

大文字の中心線など実用性はゼロです。また大文字の中心線=小文字の高さとなるケースは、少なくとも活字書体では非常に稀だと思います(大文字が大きくなりすぎるので)。そして前述したようにカリグラファーは使いません。ということはやはり数学的な真ん中を指す語ではなかった可能性が高いと思います。ただし例外として、学校のアルファベット教育では小文字は大文字の高さの半分であると習います。ここがmean lineの言葉の源だとは考えにくいですが…。何にせよこれもまだ謎の多い言葉です。これも追って調査。

結論

べつにxハイトがタイポグラフィ用語だからといってカリグラファーが使っちゃいけないとは思いません。今やxハイトはどちらの業界でも使われる語のようですが、少なくともウェイストラインなどのいくつかの語は、現状どちらかの業界でしか使いません。それさえ分かっていれば、別に伝わりさえすれば何でも良いんじゃないの?と思います。こんなに長く書いたくせに、それが結論です。今回この話題を取り上げたのは用語の裏にあるそれぞれの世界の考え方の違いが面白いと思ったからであって、言葉の棲み分けを徹底しようという目的はないのです。

また今回は英語でのみ用語を追いかけてみましたが、他の言語となると手がつけられなくなるので除外してます(最後に書くことか?)。

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