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Arion PressとM&H Typeに行ってきた

24 April, 2015

3月末にサンフランシスコに旅行に行ってきました。いろいろタイプ関係の人たちに会ってて、結局仕事でやることとあまり変わらない休暇(そういう人たちに会うのが一番楽しいんだから仕方ない)。

サンフランシスコで文字関係で特にやりたかったこととの一つにArion PressM&H Typeを見るというのがありました。M&H Typeは世界最大の活字鋳造所で、Monotypeを主としたいろいろな活字を製造販売している場所でもあります。私も大学生の時にCentaurの14ポイントをここから買ったことがあります。おそらくMonotypeの新しい活字を買おうと思ったら、もはやここ以外では入手できないのではないかと思います。Arion Pressは工芸としての本を作る工房で、テキストの選定からデザイン、組版、製本まで徹底的にこだわり抜き、年間3作ほどしか発行せず、数百部作った後は再版もしません(印刷が終わったら組版を保存せずに活字を全て溶かします)。Arion Pressの本は新品価格も数十万円程度ですが、本の愛好家の間ではとても評価が高く、のちに新車が買えるほど高騰する場合もあるそうです。M&H TypeとArion Pressは基本的に同じ工房で、Arion で使う活字はM&Hの設備を用いて鋳造します。活字を売る窓口がM&Hと呼ばれているだけ、ともいえるでしょう。

ここでは毎週木曜日にツアーをやっていて(要予約、参加費$10)、工房の全貌を1時間半ほどかけて堪能することができます。Arion Pressでは金属活字やリソグラフなど、なるべく伝統的な方法だけを使って印刷本を作ります。オフセット印刷以外はほとんど工房内で完結できるそうですし、そもそもオフセットはあまりやらないそうです。ここの最大の作品の一つである聖書は15年前に作られたものの、金属活字で印刷された聖書としては世界最後になるのではと言われています。この聖書はいまだに全ての本の製本が終わっておらず、新作の合間を縫っては製本をゆっくり続けているそうです(もちろん製本も全て手作業)。未製本の状態でも$7250(http://www.arionpress.com/catalog/060.htm)という、かなりハイエンドな金額です。使用書体はLutetiaですが、Centaurだったら買ってたな…。

他にも白鯨やドン・キホーテあたりはとてもおすすめ(価格表 http://www.arionpress.com/pricelst.htm)。写真を全然撮ってないので文章だけの紹介になってしまいますが。ドン・キホーテはCentaur使ってるから欲しい…。

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Arion Pressの活字の棚。年間3作品しか出さない割には恐ろしい量がストックされています。

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製本途中の本たち。縫いの工程の写真ばかりですが。

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やはり個人的なハイライトはM&H Typeでした。ここはMonotypeを稼動状態で置いているだけではなく、現役で活字を販売しています。Monotype鋳造機の数は6〜8台ぐらいだったと思います(要確認)。30台ぐらいの若い職人さんたちが鋳造や校正読み、工房のメンテナンスなど多様な仕事をこなしています。

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活字は基本的に本が出来上がったら溶かして新たな鉛の棒を作るため、工房内で鉛の循環利用が可能になっています。それでも活字を販売しているため徐々に減っているんですが、活字用品の店や工場から買い足しているそうです(主に閉店セールするタイミングで…)。

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今回一番面白かったのがここ。Macと繋がったMonotype鋳造機です。Monotypeは打鍵機と鋳造機が別になっており、最初にキーボードのオペレーターが打鍵機で入力したテキストを鋳造機に読み込ませて活字を作るんですが、このときテキストデータは穴の空いた紙テープで出力されます。紙テープを鋳造機に挿入すると、機械がそこに風を当てて穴の位置を認識し、そこから母型の座標を読み取り鋳造するという仕組みなのですが(コンピューターなしで!)、この紙テープはとっくの昔に製造が終了しており、新しい文章を打つのが難しくなってきているという現状があります。そこでBill Welliverという米国の方が「要するに空気圧で入力すればいいんだろ?」と気付いて打鍵機と紙テープの工程を完全に飛ばすことを思いつき、打鍵機代わりのMac用アプリケーションと沢山のゴムチューブを繋げた新たなシステムを開発しました(ちなみにこのシステムは$4000ほどで、注文すると機械とアプリケーションが送られてくるそうです)。この存在は知っていたのですが、生で見るのは初めてだったので動いているところを見られて幸せでした。

縦ビデオの暴挙をお許しください。

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M&Hの活字の在庫。Monotype機で鋳込まれた活字は紙で包装され、出荷の時を待っています。

サンフランシスコに行った時はぜひともこの工房をご覧になってみてはいかがでしょうか。活字、デザイン、印刷、製本などに関わる全ての人にオススメです!

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