Toshi
Omagari

Robothon2012レポート

10 March, 2012


Monotypeでの仕事の一発目はなんとハーグで開催されるRobothon2012の出張。いきなり出張に行かせてもらえるとはなんと幸運なことか!(会社の人はやや困ってる様子ではあったが、まぁ元々は個人参加する予定だったし日時も固定だったので、旅費を会社負担で行くことになっただけのこと)

だから当日配布されたネームタグに所属が記載されているはずもなく、自分で書くことに。ちょうどMonotypeのロゴを再現するのに必要な4色のペンを持っていたので、せっかくだからちゃんと再現することにした(はしゃぎすぎ)。

RobothonとはハーグのKABKにあるタイポグラフィコースの方々が開発してきたフォント制作支援プラットフォームRobofabやUFOをテーマにしたカンファレンスというのが僕の認識。だけど基本的には書体デザインのプロセスに関わることなら何でも扱うし、そうでない物は一切扱わない。きわめて目的がハッキリしている興味深いカンファレンスである。正直言って和文書体のデザイナーやそもそも書体デザインをしたことがないという方にはこのカンファレンスの全貌をいかに伝えればいいのかサッパリ分らないが、とにかく努力してみる。

現在、欧文を中心とした書体デザインの世界ではUFOという書体制作ファイル形式が熱くなっている。分かり辛いという方のためにPhotoshopに置き換えて説明する。もしPhotoshopが何年もアップグレードされないまま売られていて、しかも次のバージョンがいつ出てくるのか全く分からないとしたらどうだろう?いま手持ちのPhotoshop書類が今後開けなくなる可能性が出てくる。それを防ぐためにはPhotoshopと互換性が高い新たなファイル形式を作って、しかもどんなアプリケーションでも簡単に扱えるようなファイル構造にするのが理想的だ。書体制作の世界ではこれが現実に起きていて、なかなかバージョンアップしてくれないFontLabへの不信とファイル形式そのものの構造の複雑さ、信頼性の低さが新しいファイル形式すなわちUFOの誕生に至った。現在このUFOを軸とした様々なフォント開発ツールが作られており、今後もさらに充実していくだろうし次バージョンのFontLabもUFOに標準対応すると思われる。まぁFontLab6は2012年に出るとは言っているが、誰もそれを信じてないというのが現状。それだけFontLabの信頼は落ちてるのだ(それでもFontLabにしかできない仕事が多いので業界標準であり続けてはいる)。

カンファレンスで特に面白かったのがUFOベースのヒンティングツール、RoboHint。これの魅力を説明するにはヒンティングから解説しなければいけないので詳しいことは避けるが(気になった方は英語で記事を投稿しているのでご覧頂きたい)、ヒンティングを書体デザインのかなり早い段階から盛り込むことが理論上可能になるため、それがどういう風に文字の捉え方を変えてくれるかが楽しみである。それにFontLabのヒンティングツールって楽しいけど使いづらいし。

他にも膨大な量の文字数の管理やチームでの書体の管理方法、いかにマルチプルマスターの中間インスタンスのヒンティングを自動化するかなど(制約はあるが意外に簡単な方法で、みんな眼からウロコだった)、すぐに役に立ちそうな技が沢山。しかも太っ腹なことに、そのアイデアを紹介するだけでなく実際に書かれたスクリプトもちゃんと公開してくれる。

講演の外でも競合同士だろうが学生だろうが関係無しにみんな好き好きに輪を作って情報交換をしあっている。レディングやKABK卒の人間は縦横無尽に強いコネクションがあるからと言うのも関係あるだろうが、ここまでお互いのノウハウやアイデアを交換し合うというのは珍しいのではないだろうか(絶対に言えない企業秘密の部分はあるにしても)。このオープンさは他の業界、もしくは日本のタイポグラフィ業界でも見られることなのだろうか?とりあえず自分に関係あるところとしてはAppleから来ていたAntonio Cavedoni(レディングの先輩)に、モンゴル文字の対応をお願いした。「フォントをメールで送ってくれたら後はこっちがやるから任せとけ!」とあっさりOKを貰えたが、こんな簡単でいいのか(笑)

今回サプライズだったのが、Shotypeの岡野さんが日本からいらしていたこと。KABKの卒業生ではあるがすでに日本に戻られているのでさすがに参加されないかと思っていたら…!いつも通り濃い話が出来てとても楽しかった。またここでの情報というか機会を日本に活かすべく、AdobeのRead RobertsさんにFDKの日本語サポートの打診をしたり、Georg SinferdさんとGlyphs日本語化や和文本格対応(!)のためのより具体的な話をしたり。僕の頑張り次第ですが、将来的にインターフェイスは日本語化されると思いますよ。

他にも色々漏れてる話はあるが、まぁ今回はそんなところで。何を言ってるのか分からないという方がいましたらどんどん御意見ください。